ウェブサイトリニューアル前に掲載していたコラムです。
たくさんお読みいただいているようなので再掲いたします。

施設入所の家族が病気に…介護士さんは病院に連れて行ってくれない!

急きょご依頼いただいた介護施設から病院に向かう途中で、お客様から、「どうして施設の人は病院に連れて行ってくれないのでしょう?送迎で使っている車もあるのに」という質問されました。
施設にずらりと並んだ送迎車に、豊富なスタッフを見れば、誰でも同じ疑問を持つ事でしょう。
私もこの仕事を始める前までは、祖母の介護時に同じ疑問を持ちました。

この疑問に端的に答えれば、”許可を取らなければ法律上できないから”、という事になります。
さらに言えば、たとえ許可をとってもコストと手間がかかりすぎるからどの介護施設もやっていない、ということなのです。

詳しく説明しましょう。

旅客運送業には許可が必要

介護施設の運営はボランティアではありませんので、施設の人員と設備を使用するならば、お客様から料金をいただかなくてはサービスが提供できません。しかし、自動車を使って入居者を病院に連れていきその対価をもらうという行為は、旅客運送業の許可がなくてはできません。(旅客運送業の許可とはタクシー業の許可のことです。)
許可がなくてはお金をもらうことができないから、やらないということですね。

現在、介護施設は、自動車をつかって施設までの送迎を有償でやっています。通所型施設とご自宅の往復だけは許可がなくてもできることになっています。
これも本来は、自家用車(白ナンバー)での有償運送を禁じた道路運送法を逸脱しており、かつて実際に問題となりました。
しかしその必要性から、国土交通省と厚生労働省との協議が行われ、自家輸送の一種として例外的に認めることとしたようです。
(自家輸送とは、例えばホテルや居酒屋の無料の送迎サービスなどのことで、許可はいりませんが有料ではできません。)
施設送迎が介護保険の対象となっていて料金をとっていることは例外中の例外で、どこを見渡しても許可なしで料金を取っている業態はほかになく、かなり特別なことといえましょう。
(現在はより国土交通省に気をつかってか、送迎は無料だが、通所を家族が行ったり通所施設に老人ホームなどが隣接していて送迎が必要ない場合は介護報酬が減算されるという、屁理屈のような制度になっています。)

経緯はともかく、実態としては、施設は介護保険からお金で、送迎専用車をずらりとそろえています。
しかし、その送迎車を使って介護施設と病院の往復やドライブなどのサービスを有償で提供すれば、完全に旅客運送業の範疇となってしまいます。だから、さすがに許可がなければ送迎車でそういうことはできません。(※平成30年に機能訓練としてなされる介護保険サービスとしての外出レクは自動車を使ってOKとの見解が示されました。ただし追加利用者負担費用は設定できません。)
無償ならいいのかとも思えますが、何かサービスを提供している業者は、その顧客に旅客運送を無償でも提供してはいけないというルールになっています。ほかのサービスに料金を上乗せすればいくらでも脱法できてしまうからです。
それに介護士さんたちはプロです。無料で提供するサービスはないのは当然です。

とにもかくにも、送迎以外で自動車を使うには旅客運送業の許可が必要だということです。
有償運送には許可が必要という部分の線引きをあいまいにしてしまうと、バスやタクシーといった公共交通機関のシステムが崩壊してしまいますから仕方ありません。タクシー会社やバス会社は、わざわざ大変な思いをして旅客運送業の営業許可をとり2種免許を取得したドライバーをそろえても採算が取れませんから事業を行わなくなってしまい、一般市民は大変不便になってしまいます。

福祉タクシーの運営は手間とコストがかかります

それならば、介護事業所が旅客運送業の許可を取って福祉タクシーをやればいいですよね。
そうすれば、皆さんをどこへでも好きなところに運べます。ドライブなども適法に行き放題です。
しかしほとんどの介護施設はやっていません。なぜでしょうか?

なぜなら、手間とコストがかかりすぎて採算が取れないからです。

自動車を使った旅客事業は、事故が多く危険なため、大変に厳しい規制が敷かれています。第二種自動車免許から始まり、車の車検基準や整備基準、運営規則などその規制は多岐にわたります。(加入を義務付けられている旅客自動車の任意保険は、なんと自家用の10倍近い金額です。)
数年前の高速ツアーバスの事故から規制の流れは、記憶に新しいですね。あれは旅行ツアーの名を借りた路線バスの脱法行為だったので、路線バスの安全基準を満たしておらず、それが原因で事故がおきてしまいました。そして規制がかけられましたが、結果として高速ツアーバスはほとんど消えてしまいましたね。規制に適合するように運営すると、安全と引き換えにコストが跳ね上がるので、格安ではできないのです。

同様に厳しい規制の敷かれた福祉タクシー事業は、規制に適合させ安全性を担保する費用をかける必要があり、施設で働くパートのヘルパーを使って片手間にできる事業ではありません。また介護保険からもお金が出ませんので高額なサービスとなり、利用者は限られます。自分の施設の利用者だけを対象としていたのでは、利用が少なすぎて全く採算が取れないでしょう。
また、介護施設の人員は介護保険で定められた最低人数で回しているので、病院への送迎で人が抜けられないという事情もあるかと思います。
つまり介護事業とは相乗効果があまりないのです。だから、ほとんどの施設は福祉タクシーをやりません。

まとめ

このような理由から、施設の送迎車で病院には連れて行ってもらえないのです。
残念ながら、せっかく介護保険で維持されている施設送迎車は、送迎以外に使えずすごくもったいないことになっています。
また、私たち福祉タクシー業者も、空いた時間に健常者の方を乗せられないのでリソースが有効活用されていません。(健常者の送迎は依頼があっても断っています。)
規制緩和が進むことを望みます。

現状、施設から病院へは、私たちのような専門業者を使うのが一番クリアです。
安全性はもとより、万一の際の保険もばっちり(旅客運送業者はすべての事業者が法律により強制的に乗客をカバーする任意保険に加入しています)でリスクを完全に負担できるからです。
利用は電話一本でできますし、少しの費用負担で事故などのトラブルから身を守れます。
便利な福祉タクシーをぜひご利用ください。